本年度の研究はサルに感染性を有するマラリア原虫の一種、Plasmodium coatneyiを人工感染させたニホンザルにおける血漿中の細胞接着分子の推移と、病態の関連性を解析した。本研究では7頭を感染群、6頭を対照群とし、血漿中soluble ICAM-1濃度およびsoluble VCAM-1濃度をELISA法により測定した。その結果、感染群における感染前血漿中sICAM-1濃度は平均566.6±152.5pg/mlであったのに対し、重症マラリア発生時では2572.9±1067.8pg/mlに増加しており、血漿中sVCAM-1濃度もまた同様の傾向が認められた(感染前:平均181.8±91.9ng/ml、重症マラリア発生時:470.5±295.6ng/ml)。また感染群のうち2頭については感染経過にともなう血漿中の細胞接着分子の推移を観察したところ、sICAM-1濃度およびsVCAM-1濃度ともに赤血球感染率の推移に相関しており、赤血球感染率が急上昇して重症マラリアに至る時期に著しく増加していた。ICAM-1およびVCAM-1はTNF-α等のサイトカインによって血管内皮細胞から誘発し、感染赤血球の接着現象に大きく関与していることが知られている。前年度までの研究では重症マラリア発生したサルの血清中TNF-α濃度が著しく高い値を示すことを明かにしており、これらの結果から多量のTNF-α産生刺激を受けて血管内皮細胞上にICAM-1およびVCAM-1が発現し、それらに感染赤血球が接着することで血管が塞栓され、マラリアは重症化すると示唆された。
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