チフス菌のVi抗原はGalNAcAのホモポリマーからなり、この菌の重要な病原因子と考えられている。Salmonella dublin、S.paratyphiC、Citrobacter freundiiにも同じ抗原性をもつ莢膜多糖、これらもViと呼ばれている、が分布することが知られているが、これらについては遺伝学的な解析が進んでいない。チフスのViとこれら莢膜との系統関係を明らかにすることはViの生合成や進化を考える上でも重要と考え、チフス菌のVi遺伝子クラスターの先頭に位置するvipR塩基配列からPCRプライマーを作成し、他菌からDNAを増幅しその塩基配列を比較した。使用したすべてのVi陽性株から期待したサイズのPCR産物、約750-bpが増幅された。vipR変異を持つチフス菌を使った相補試験により、他のVi陽性株においてもvipR産物の機能が保存されていることを確認した。塩基配列の解析からVi抗原はチフスを含むサルモネラグループとC.freundiiとに分類されることがわかった。サルモネラのvipR遺伝子は非常によく保存されており実験に使ったすべての血清型、菌株間で完全に一致した。ごく最近サルモネラ間でVi遺伝子クラスターを含むDNAの水平伝播が起こった可能性が示唆される。C.freundiiとサルモネラグループとではアミノ酸レベルで68%の相同性しか示さず、これらは共通の祖先遺伝子から派生してきたが比較的早い時期に分岐したと考えられる。
|