Helicobacter pylori(HP)はヒトの胃粘膜に感染し、慢性胃炎、胃潰瘍、胃癌の誘因となる。しかし、HPがどのような機構を介して上記の病態を起こすのかについては不明な点が多い。また、HPは必ず持続感染の形をとることから、HPに対するヒトの免疫応答は「微生物が感染し、免疫応答が起こり、微生物が除かれる」といった古典的な感染症での免疫応答とは異なった様相を呈する。本研究において、HP感染が胃粘膜において腫瘍免疫に与える影響の解析を目的に、ヒトとHPとの間の「宿主-寄生体相互関係」の解析を行ない、以下のような成績を得た。 1.HP感染の最初のステップである胃粘膜上皮に対する付着をin vitroで迅速に定量するための方法を開発した。本法を用いて、様々な疾患より分離された菌株の付着活性を測定したところ、その付着活性が菌株によって大きく異なることが判明した。 2.上記の実験の過程で、いくつかの化学物質がHPの付着を阻害することを確認した。現在、これらの物質のHP感染症の治療薬としての有効性について検討中である。 3.HPの感染が自己免疫様の神経炎を起こした症例を報告した。 4.様々な疾患より分離されたHPのリポ多糖の抗原性の解析を行なった。その結果、HPのリポ多糖の抗原性は多様性に富み、胃癌患者由来のHPのリポ多糖がその他の患者由来のものに比べて抗原性が低いことが判明した。 以上の結果は、ヒトとHPとの間における「宿主-寄生体相互関係」がかなり多様性に富んだ複雑なものであることを示唆している。しかし、現時点ではこれらの複雑な「宿主-寄生体相互関係」が具体的にどのような病態に関連してくるのかについては不明であり、さらなる検討が必要である。
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