研究概要 |
Helicobacter pylori感染により誘導される胃・十二指腸慢性炎症反応の発生機構を明らかにする目的で申請者は、以下の実験を計画し、行った。 1.本菌熱ショック蛋白HSP60を特異的に認識するモノクローナル抗体(mAb)の確立。 2.本菌HSPとヒト胃上皮細胞との交差反応性の検討。 3.H.pyloriの病原性発現における本菌HSP60の役割について。 4.本菌HSP60による炎症性サイトカインインターロイキン(IL)8の誘導能について。 その結果、H.pyloriHSP60を特異的に認識するmAbH20を確立した(J.Med.Microbiol.,1997)。そしてヒト胃上皮細胞との交差反応性について検討した結果、本mAbの認識するエピトープがヒト胃上皮細胞上にも存在することを明らかにした(J.Med.Microbiol.1997)。またH20mAbがH.pyloriのヒト胃上皮細胞への付着を抑制することを見い出し、本菌HSP60がH.pyloriのヒト細胞への付着性に重要な役割を演じている可能性を示唆した(J.Med.Microbiol.,1997,J.Gastroenterol.,in press,1998)。一方、本mAbが本菌の発育を抑制することも見い出し、H.pyloriの発育に菌体表面に発現しているHSP60が重要な役割を演じていることが明らかになった(Microbiol.Immunol.,1997)。ヒト胃癌患者切除胃よりヒト胃上皮細胞を分離・精製し、本菌HSP60で刺激した結果、炎症性サイトカインIL8を誘導することを明らかにした(投稿準備中)。 これらの結果より、H.pyloriによるヒト胃・十二指腸炎症反応において本菌HSP60が重要な役割を演じていることが示唆され、本菌による病態発症機序の解析を行うにあたり有益な結果が導きだせたと考えられた。
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