HIV感染無症候キャリアー(AC)のCD8陽性細胞がHIVの複製を抑制すること、この活性に複数の因子が関与していることが示唆されている。この1つとして我々は細胞接触に依存したHIV抑制活性を見いだしているが、その分子機構は不明である。最近、T細胞親和性ウイルスのco-receptorが同定され、そのリガンドであるSDF-1がHIVの複製を抑制することが報告された。しかしながら、無症候期におけるHIV複製抑制へのSDF-1の関与、および我々が検出している抑制活性との異同については明らかでない。そこで無症候期におけるHIV複製抑制へのSDF-1の関与について検討を行った。 はじめに、健常人およびACより末梢血単核球(PBMC)を分離し、RT-PCR法によりSDF-1のmRNAの発現を調べるとともに、CD8陽性細胞によるHIV抑制活性を測定した。健常人の無刺激のPBMCにSDF-1の発現は検出されなかったが、HIV感染者では発現が認められ、特にACの1部の人では発現が高いことが判明した。PHA刺激後のSDF-1発現は、ACと健常人の間で違いは観察されなかった。しかしながら、PHA刺激した健常人のCD8陽性細胞がHIV複製を抑制しないのに対して、ACのCD8陽性細胞では有意な複製の抑制が認められた。さらにCD8陽性細胞によるウイルス抑制の作用機序をHIVのpseudotype virusを用いて検討したところ、ウイルスの細胞への侵入以降の過程を主に抑制していることが判明し、作用機序の点でもSDF-1と異なることが明らかとなった。 以上のことからHIV感染者ではSDF-1の発現が亢進しているが、AC由来のCD8陽性細胞で認められる抗HIV活性にはSDF-1が関与しないことが示唆された。
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