ムンプスウイルスには、ウイルス粒子表面に2種類の糖タンパク(F及びHN)が存在するが、これらはウイルスの細胞への吸着、侵入、さらに細胞融合に伴う多核巨細胞形成に重要な役割をしているばかりでなく、主な感染防御抗原としても重要であるとされている。これまでに、それぞれのタンパクに対するモノクローナル抗体の作製が試みられ、抗HNモノクローナル抗体にはウイルス中和活性を有するものが作出されているが、抗Fモノクローナル抗体には中和活性を有するものは報告されていない。本研究では、それぞれのウイルス表面糖タンパクの感染防御抗原としての意味を明らかにするために、ムンプスウイルスのF及びHNタンパクをコードするcDNAを真核細胞で発現するプラスミドを構築し、これらをマウスに投与することで、それぞれのタンパクに対する抗体の誘導を試み、それらの抗体にウイルス中和活性があるかを調べた。ムンプスウイルスF及びHN遺伝子cDNAを発現プラスミドpCAGGSにクローニングし、これらを培養細胞COS7にトランスフェクトして各タンパクの発現を確認した。精製プラスミドDNAを金粒子にコートした後、遺伝子銃を用いてBalb/cマウス腹部表面に投与した。いずれのDNAを投与したマウス血清においても、精製ムンプスウイルスを固相化したELISAで有意な抗体の上昇が認められ、間接蛍光抗体法により各タンパクに特異的であることがわかった。さらに、これらのマウス血清についてウイルス中和活性を50%プラーク減少法により測定したところ、DNA投与後8週目には、Fで20倍から80倍、HNでは80倍から320倍の抗体価を示した。 このことは、ムンプスウィルス表面糖タンパクのHNばかりでなく、Fも中和活性を有する抗体を誘導できる感染防御抗原になり得ることが明らかになった。
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