ブルトン型チロシンキナーゼ(Btk)は、ヒト伴性無ガンマグロブリン血症(XLA)の原因遺伝子として単離された非受容体型チロシンキナーゼである。Btk遺伝子に-アミノ酸変異をもつ伴性劣性免疫不全(XID)マウスやBtk欠損マウスは様々なB細胞機能不全を示し、XLAの動物モデルと考えられる。昨年度、我々はXIDマウスの免疫異常の是正法を開発する目的でBtkトランスジェニック(Btk-Tg)マウスを作製することに成功した。本年度はこのBtk-Tgマウスを用いてXLAの遺伝子治療を推進する際の問題点、(1)Btk遺伝子の導入によりB細胞異常を是正することの可能の有無、(2)Btkの異所性発現の個体の免疫系に対する影響、についてアプローチを行い以下の結果を得た。1)Btk欠損マウスとBtk-Tgマウスを交配させ、Btk欠損マウスにBtkを発現させたところ、Btk欠損マウスのB細胞異常(CD5陽性B細胞の欠損、IL-5、抗IgM抗体、抗CD38抗体刺激に対するB細胞の応答不全)がBtkの発現量依存的に回復した。2)Btk-Tgマウスでは本来Btkの発現していない胸腺でBtkの過剰発現が認められた。Btk-Tgマウスの胸腺と脾臓ではNKT細胞が減少しており、一次刺激に対するIL-4の産生が減少していることから、Btkの過剰発現によりNKT細胞の分化及び機能が障害がされることが判明した。これらの結果から、Btk遺伝子の導入によりXLAを治療するには十分な量のBtkの発現、B細胞を標的としたBtkの発現誘導が必要であることが示唆された。
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