HTLV-I遺伝子導入動物を用いたHTLV-I関連疾患の発症機構の解析

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09770221
• 研究機関: 鳥取大学
• 研究代表者: 山崎 英俊 鳥取大学, 医学部, 助手 (00283987)
• キーワード: HTLV-I / env-pX transgenic rat / osteoclastogenesis / B lymphopoiesis / cytokine / arthritis / myocarditis

研究概要

1.env-pX遺伝子導入ラットの造血機能の解析1
[目的]我々が作製したヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-I)、env-pXトランスジェニックラットにおいて、関節炎をはじめとする様々なCollagen vascular diseasesの発症や、末梢血中の顆粒球の増多や血清中のリウマチ因子など自己抗体の産生が認められた。また、以前よりATLの患者に高率に高カルシウム血症が存在し、HTLV-Iによる破骨細胞の活性化が示唆されてきた。今回我々は、遺伝子導入による血液細胞、特に破骨細胞とB細胞の分化増殖に関わる影響を調べたので報告する。[方法]1.破骨細胞:大腿骨より骨髄細胞を採取し、マウス血液支持細胞ST-2上でVitaminDおよびDexamethadoneを添加後6日間培養し、TRAP(酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ)染色により、破骨細胞の出現頻度および細胞数を測定した。さらに、関節炎発症env-pXラットと未発症env-pXラットとの比較、コントロールとしてアジュバンド関節炎発症ラットを用いて、関節炎発症における破骨細胞の反応性を検討した。2.B前駆細胞:骨髄細胞をST-2上でmll,-7添加後6日間培養し、出現頻度を測定した。[結果と考案]env-pXラットでは破骨細胞数および破骨細胞の頻度、B前駆細胞の頻度が増加していた。関節炎発症env-pXラットでは、未発症env-pXラットに比べ破骨細胞数および破骨細胞の頻度の増加を認めたが、アジュバンド関節炎発症ラットでは、破骨細胞の頻度およびB前駆細胞の頻度は変わらなかった。以上より、関節炎による破骨細胞の分化の促進、env-pX遺伝子導入によるOsteoclastogenesisとB lymphopoiesisの両者への影響を認め、env-pX遺伝子が血液細胞の分化の比較的初期に影響を与えている可能性が示唆された。
2、env-pX遺伝子導入ラットの免疫病理学的解析
[目的]env-pX領域遺伝子導入ラット(env-pXラット)で誘導される関節炎及び心筋炎の発症に関与するサイトカイン遺伝子の発現の有無や役割を同定するために、HTLV-I以外の非特異的炎症群として、adjuvant arthritisとmyosin induced myocarditisのモデルラットを作製し、さらに同遺伝子導入ラットの未発症群を対象群とし実験した。[方法]作製したモデルラットの関節部、心筋よりRNAを採取し、RT-PCR法により導入遺伝子及び様々な炎症性サイトカインの発現の有無を検定した。[結果と考察]関節炎部、心筋炎部ともに特異的炎症群に比べてenv-pXラットでIL-2及びIFNrの発現が亢進していた。また未発症のenv-pXラットに比べ炎症群でも発現の亢進がみられた。導入遺伝子の発現増強とそれにより誘導される炎症性サイトカインの発現亢進が関節炎や心筋炎の発症に深く関与している可能性が示唆された。

研究成果

• [文献書誌] H Yamazaki.: "wide spectrum of collagen vascular and autoimmune diseases in transgenic rats carrying the env-pX gene of human T lymphocyte virus typeI." int. immunoi.,. 9.339-346 (1997)
• [文献書誌] H Yamazaki: "HTLV-I env-pX transgenic rats:prototype animal model for collagen vascular diseases." Reukemia..11.Sup.3.258-259 (1997)
• [文献書誌] H Shikishima: "HTLV-I pX transgenic rats:development of cytokine-produsing mammary carcinomas cell and establishment of the pX mammary carcinoma lines." Leukemia..11.Sup.3.70-72 (1997)
• [文献書誌] T Yoshiki: "Models of HTLV-I-induced diseases.Infectious transmission of HTLV-I in inbred rats and HTLV-I transgenic rats." Leukemia..11.Sup.3.245-246 (1997)
• [文献書誌] T Yamane: "Development of osteoclasts from embryonic stem cells through a pathway that is c-fms but not c-kit development.," Blood. 90.3516-3523 (1997)
• [文献書誌] S Hayashi: "Osteoclast precursors in bone marrow and peritoneal cavity." J cell physiol.170. 241-247 (1997)
• [文献書誌] A Miyamoto: "Establishment and characterization of an immortal macrophage-like cell line inducible to defferentiate to osteoclasts." Biochem Biophys Res Commun..242.703-709 (1998)