正の選択を誘導することが出来る抗TCRβ抗体および負の選択を誘導することが出来る抗CD3ε抗体を用いてCD4C08ダブルポジティブ未熟胸腺細胞に刺激を加え、初期段階におけるTCR近傍のチロシンリン酸化について検討した。抗TCRβ抗体による刺激と抗CD3ε抗体による刺激とではCD3ζ鎖のリン酸化の違いが観察され、TCRアンタゴニストによるシグナル伝達と同様に正の選択と負の選択において初期段階からシグナル伝達の様式が異なる可能性が示唆された。 さらに正の選択におけるシグナル伝達経路を詳細に検討する目的で、TCR刺激によって正の選択が誘導されるような特殊な未熟胸腺細胞株DPKを用いて正の選択時のシグナル伝達の解析を行った。このDPKを用いたin vitroにおける正の選択の誘導系において、MAPキナーゼのJNK経路およびp38経路を同時に阻害する阻害剤を添加することにより正の選択が強く抑制されることが明らかとなった。同時に、p38経路に対する特異的な阻害剤によっては正の選択の阻害は観察されなかった。以上のことから正の選択のシグナル伝達にJNK経路が関与している可能性が強く示唆された。現在JNK経路の正の選択への関与を詳細に検討する目的で、JNKの上流活性化因子であるMKK7の優性不能型変異遺伝子をDPK細胞に導入して正の選択に対する影響を検討している。また同様に、NFAT4、MEK-1などの種々のシグナル伝達分子の恒常活性型、優性不能型の遺伝子をDPK細胞に導入することにより、正の選択におけるシグナル伝達の分子レベルでの解析を進めている。
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