T細胞受容体(TCR)の4鎖は、各分化ステージ特異的に遺伝子が再構成して発現する。 しかし、そのような遺伝子DNAの高次構造を制御する機構は不明な点が多い、この課題解明の一端として、本研究では1)TCR-α鎖遺伝子変化を制御するシスエレメントの同定、及び2)TCR-β鎖遺伝子再構成とT細胞系列分化に深く関わる転写因子GATA3の役割を検索した。その結果得た各項目の成果を以下に記載する。1)昨年、TCR-α鎖遺伝子の分化ステージ特異的な新しい制御シスエレメントをJα49上流域(170bp)に見出した。本年度は、その領域を129マウスゲノムライブラリーから単離して、それをもとにtargeting-vectorを作製し、homologousrecombination法により当該領域欠損マウスを樹立した。その解析の結果、TCR-α鎖の内、Jα49-45セグメントまでの遺伝子再構成とgerm line(GL)転写は検出されなかった。従って、TCR-α鎖遺伝子再構成にはエンハンサー以外に分化ステージ特異的なシスエレメントが近傍のセグメントに作用することが明らかとなった。さらに、先行するGL転写は同部位のDNA再構成に必須であることを、直接証明した。2)TおよびB両細胞すべての分化ステージに発現を惹起するベクターを結合した遺伝子を導入したGATA3ミュータントマウスを作製した。それらから繁殖したマウスの胎仔肝、骨髄、脾臓からプレB細胞とB細胞を得て解析したが、予想に反してB細胞系のどの分化ステージにもTCR-β鎖遺伝子の再構成は認められなかった。又、B細胞の減少も著明でなかった。B細胞分化への抑制が著しくない1原因として、導入GATA3遺伝子の弱発現が考えられるので、現在異なるプロモーター結合のGATA3導入マウスを作製中である。
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