中枢神経系におけるストレスに対する亜鉛および一酸化窒素の役割を検討するための基礎データを得ることを目的として、ラット脳海馬部位での一酸化窒素(NO)産生に対する亜鉛の影響をマイクロダイアリシス法により検討した. 実験は脳海馬の苔状線維にダイアリシスプローブを埋め込んだWistar雄性ラットをウレタン麻酔下で行い、人工脳脊髄液(ACF)をプローブ毎分2μlの流速で潅流し回収されたNOの代謝物NO_2およびNO_3をグリース法により分析した。NOの誘導は10mMのNMDAを添加したACFを10分間潅流させて行った。NMDAによるNO産生に亜鉛が影響し得るかどうかを検討するためにインジェクションニードル付のプローブを用いて500μMの亜鉛(ZnCl_2/ACF)をプローブの先端部へNMDAの潅流2分前より10分間4μl注入した。更に海馬中に存在する遊離の亜鉛の影響を取り除くために亜鉛に特異的なキレート剤であるジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム(SDEDTC)を腹腔内投与(300mg/kg)した。 ラット脳海馬において、NMDAによるACF中のNO_3の回収は亜鉛投与により増加が認められた。一方でSDEDTC投与したラットでは、NMDAの誘導によるNO_3の回収が抑制された。また、NO_3の回収量はSDEDTCの腹腔内投与により増加することが観察された。これらの結果は脳海馬に存在する遊離の亜鉛がNO酸生を誘導する重要な因子の一つである可能性のある事が示唆された。
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