キレート可能亜鉛あるいは蚕白質に緩やかに結合している亜鉛は、臨床的な亜鉛指標となる可能性が指摘されているが、それを支持する動物実験は報告されていない。そこで、亜鉛欠乏飼料にてラットを飼育し、血漿や組織中キレート可能亜鉛を測定した。4週令、体重約100グラムのウィスター系雄ラット28匹を3群に分け、21日間飼育した。亜鉛欠乏群(D群)にはAIN-93G処方精製飼料から亜鉛を除いた飼料(亜鉛欠乏飼料)を、ペアフィーディング対照群(PF群)にはD群が前日に食したのと同量のAIN-93G精製飼料(亜鉛充足飼料)を与えた。自由摂取対照群(AL群)には、亜鉛充足飼料を自由に摂取させた。D群のラットは著しい成長遅延、活動性の低下や体毛の粗造化が認められた。D群のキレート可能亜鉛は、PF群やAL群に比べて著明に低下したが、キレートされない亜鉛(全血漿亜鉛からキレート可能亜鉛を除いたもの)には有意な変化はなかった。肝臓、腎臓および精巣では、D群のキレート可能亜鉛はPF群やAL群に比べて有意に低下した。血漿、脳、肺、精巣においてD群のアルカリホスファターゼ活性はPF群やAL群に比べて有意に低下した。PF群に比較して、D群のアンギオテンシン変換酵素は腎臓では有意に低下したが、血漿では有意に増加した。また、最も活性の高い肺では活性の変化はなかった。アンギオテンシン変換酵素は主に肺で生成され、肝臓で分解されると考えられており、亜鉛欠乏に伴う肝臓での分解の低下が示唆された。これらの結果より、キレート可能亜鉛は亜鉛栄養状態の評価に利用できることが示唆された。
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