本実験で用いたマウスJ774細胞は、マクロファージ様の貧食能を有する細胞である。数種類の鉱物繊維をJ774細胞に曝露し、その影響指標として従来用いられてきた腫瘍壊死因子(TNF)産生量を測定すると同時に、細胞内DNA中の8-hydroky-2'-deoxyguanosine(8-OH-dG)量を測定した。被験物質として、クロシドライト、アモサイト、クリソタイルの3種の天然鉱物繊維、及び、セラミックファイバー、グラスファイバー、チタン酸カリウムウィスカの3種の人造鉱物繊維を用いた。J774細胞を培養し細胞数を調整した後、各々の鉱物繊維を曝露した。一定時間の培養の後、TNF値及び8-OH-dG量を測定した。 クロシドライト及びアモサイトにおいて繊維を曝露していないコントロールに比べて8-OH-dGの上昇が認められた(p<0.05)。クリソタイルにおいても上昇の傾向がみられたが、有意差は認められなかった。また、3種の人造鉱物繊維においては、8-OH-dGが認められなかった。一方、TNF産生量は全ての好物繊維の曝露により上昇した。 さらに、クロシドライト曝露実験における曝露濃度及び曝露時間について検討した。8-OH-dG量は、曝露濃度が0〜100μg/mlの条件において曝露濃度依存的に増加した。また、曝露時間については、曝露開始から20時間までは8-OH-dGの増加がみられ、18〜20時間で最大値に達した後、徐々に減少し、曝露開始から48時間後に曝露前のレベルまで減少した。 今回、8-OH-dGの上昇が確認された繊維はいずれも発癌性が認められている。従って、発癌性を評価するためには、その指標としてTNFよりも8-OH-dGが有用であると考えられる。また、本研究において用いた手法を、鉱物繊維の発癌性を予測するスクリーニングシステムとして用いる際には、曝露濃度及び時間に留意する必要がある。
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