本研究は、繊維状粉塵及び微粒子状物質の発癌性を迅速かつ簡便な方法を用いて評価することを目的とするものである。本実験で用いたマウスJ774細胞は、マクロファージ様の貧食能を有する細胞である。被験物質をJ774細胞に曝露し、発癌性を評価する指標として細胞内DNA中の8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OH-dG)量を測定した。 被験物質として天然鉱物繊維であるクロシドライトを用いて曝露条件について検討した結果、曝露濃度が100μg/ml、曝露時間が18時間の条件が最適であることが明らかになった。前年度の研究に続き、本条件により数種類の鉱物繊維の曝露実験を行なったところ、クロシドライト及びアモサイトでは8-OH-dGの有意な上昇がみられた。一方、セラミックファイバー、グラスファイバー、チタン酸カリウムウィスカでは8-OH-dG上昇は認められなかった。この結果は、本実験方法が発癌性の評価システムとして有用であることを示している。 さらに、被験物質としてディーゼル微粒子について検討した。ディーゼル微粒子の曝露により8-OH-dG量は上昇の傾向がみられたが、データのばらつきが極めて大きく、現段階では再現性に欠いている。顕微鏡での観察から、ディーゼル微粒子は細胞培養液中で相互に接着して「大きい粒子」を形成していることが判明した。このためJ774細胞による粒子の貧食に差が生じたものと考えられる。現在、細胞に曝露するディーゼル微粒子の前処理について検討中である。
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