(目的)HIV(エイズウイルス)感染直後から抗体価が上昇するまでの時間があるため、抗体価を測定する既存のスクリーニング法では安全性を確保することが困難であり、また、一般に行われている加熱などによる病原体不活化は、血液中の有用成分の失活を避けられないため、安全な血液製剤を確保するためには、新たな不活化・除去技術の開発が必要である。そこで、高水圧処理法のHIVに対する有用性を確認し、実際に医学に応用できるウイルス不活化、除去技術として確立することを目的とする。 (結果)水圧を用いた高圧処理装置(HPK.Hikarikoatsu Co:)を用いて高圧処理を行い、ウイルスの感染力価及び逆転写酵素活性を測定した。その結果、HIVの実験室株であるLAI株、III_B株を不活化するには400MPa(メガパスカル)、実験室株であるRF株と臨床分離…V株であるKK-1株、KK-2株を不活化するには500MPa以上が必要であり、また処理後の感染力価と逆転写酵素活性の阻害効果の間には高い相関性があることが明らかになった。処理後のHIV粒子の電子顕微鏡を用いた解析において、HIV粒子の構造の変化(コア蛋白質の漏出、エンベロープの変型・断裂)が観察された。 これらの結果よりHIVの不活化は逆転写酵素活性の低下、及び/またはHIVの構造の変化によるものと推定された。完全な不活化に500MPa以上を要する株について、さらに高い圧を加えて研究を継続し、株間に存在する高圧に対する感受性の差の生じる機序を明らかにすることにより、高圧処理によるウイルス不活化の信頼性を高め、この方法を実際に応用した場合の安全性を確立する必要があると思われる。
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