フィリピン共和国における公的医療保険制度は、1969年に成立したPhilippine Medical Care Actに基づくPhilippine Medical Care Plan(Medicare)に始まる。同法は、被雇用を対象とするpartIおよび、その他の国民(自営業者、貧困層等)を対象とするpartIIからなるが、後者の運営は実質的にはなされてこなかった。partIの給付対象サービス、給付条件は、旧宗主国米国のMedicare制度を参考にしている。保険料は、給与の2.5%相当額を労使で折半し、給付率は33%であった(1989年)。民間企業の勤務者を対象にしたThe Social Security System(SSS)と、政府職員を対象にしたThe Government Service Insurance System(GSIS)がMedicareの中心的な組織となっているが、1989年の調査では対象労働人口の20%しか加入していない。1995年に施行されたNational Health Insurance Actは、National Health Insurance Cooperationを創設し、すべての国民に対する健康保険を一本化した国家医療保険制度を15年以内に成立することをめざした、発展途上国としては画期的な制度である。しかし、同制度には以下のような問題がある。1)人口の半数を占め、安定した現金収入をもたない零細農民・漁民をも含めた全国民の加入を目指しているが、運営に必要な財源の確保に問題がある(特にinformal sectorの就労者の保険料徴収)、2)National Health Insurance Cooperationは、最大の保険組合であるSSS、GSISの基金を引き継ぐが、それ以外の保険組合の基金は独立のままであり、SSS GSISの加入者にとって不公平である。国家医療保険制度の成立と運営の継続のためには、上記1)の問題への対策が不可欠であり、保険料の決定方法、徴収方法等、運営の具体的な方策を検討する必要がある。他の途上国に比して、フィリピンでは保健分野のNPOの活動が活発であり、Health Maintenance Organizationや、住民による共済組合がさまざまな組織・地域で運営されている。公的保険の導入のみに頼ることなく、これら民間組織のサービスも組み合わせることによって、住民の便益を最大にすることが当面必要である。
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