ヘリコバクター・ピロリ菌(以下H.pylori)は菌株のバリエーションがきわめて大きいことが報告されている。本研究の目的はH.pyloriの菌株を分子疫学的に系統分類を行うことにより、家族内、地域内など集団での感染経路を明らかにすること、また分離された株の遺伝子型を臨床症状と併せて解析することにより、病原因子の解明を行うことである。菌株の多様性が生じる一因として、感染により生体内で産生・誘導されたラジカルがH.pyloriの遺伝子変異を生じさせているのではないかと申請者は予想した。 そこで平成9年度は基礎実験としてin vitroにおいて各種ラジカル発生剤を作用させH.pyloriの増殖に与える影響を検討した。最も増殖を抑制したのはNOC5(・NOドナー)であり、プテリンとキサンチンオキシターゼ(O_2^-発生系)は全く影響を与えなかった。またパーオキシナイトライト(ONNO^-)が協力な毒性を持つとされている従来の知見を支持する結果は得られなかった。また・NOラジカルの代謝物である硝酸イオン(NO_3^-)は全く影響を与えず、同じく代謝物である亜硝酸イオン(NO_2^-)は著明な抑制を与えなかった。NOC5と・NOと結合するミオグロビンを同時に作用させた場合は、ミオグロビンを一定量以上添加すると増殖はコントロールと同様のレベルまで回復した。これより・NOラジカルがH.pyloriの傷害に大きく関与している可能性が示された。 今後は・NOラジカルに作用させたH.pyloriから変異株を発現させ、臨床分離株との遺伝子解析の結果を比較検討することにより、菌株の種別による病態や疾患と菌の諸因子の関与の解明に努める予定である。
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