本研究では、1990年代の高齢者コホートでの、生活様式と健康事象との関連の状況を、1980年代の高齢者コホートでの状況と比較した。昨年度は早期死亡との、今年度は日常生活動作能力(ADL)低下との関連を検討した。研究実施地域は高知県大方町で、同町の1992年の65歳以上在宅高齢者2230名を1998年まで追跡した。コホートメンバーのADLの変化は、1998年に、同町の65歳以上在宅高齢者全員に実施した質問紙調査により把握した。ADLを、食事、整容、排泄、更衣、入浴、歩行の6項目で評価し、6項目いずれでも手助けが必要ない者をADL自立者、1項目以上手助けが必要な者を非自立者とした。生活様式要因としては、保健習慣(食事規則性、便通規則性、睡眠時間、喫煙、飲酒)、健診受診、仕事・家庭での役割、社会的ネットワーク(同居家族、婚姻状況、友人との交流、老人クラブ活動参加)をとりあげた。解析では、1992年のADL自立者1749名から、1997年12月までの死亡者141名と、転出者16名を除き、残り1592名のうち、1998年にADLを把握できた1287名を用いた。1992年の生活様式と1998年におけるADL低下との関連は、多重ロジスティック回帰モデルによって、性、年齢、1992年の自覚的健康状態を調整して検討した。各生活様式要因のADL低下のオッズ比を、同町で1982年に設定した65歳以上在宅高齢者コホートでのADL自立者1069名を、1987年まで追跡した結果と比べた。仕事・家庭での役割がない者のADL低下のオッズ比が、1992年コホートで減少したことが注目された[1982年コホートでのオッズ比2.4(95%信頼区間1.5-4.0)、1992年コホートでのオッズ比1.5(95%信頼区間0.8-3.0)]。近年の高齢者コホートでは、生活様式の社会的側面が多様化し、仕事・家庭での役割保持とADL維持との関連が小さくなった可能性がある。今後、性、年齢階級別の状況について検討を加える。
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