本研究の大きな目標は種々の素因別に動脈硬化症の危険度を予測し、それぞれのグループの生活指針を導き出すことにある。この目標達成上「素因として何を指標に使うか」 「どんな生活項目にどう気をつけるか」を明らかにするためのステップとして、「内臓脂肪型肥満」の候補遺伝子(β_3-AR遺伝子多型)を素因スクリーニングの指標として新たに追加検討するために、昨年度はまずその同定を行った。 今年度は、昨年度同定出来なかった被験者に対し一部はDNAの抽出から再実施した結果、7名の追加同定が可能となった。これまで血清脂質値への素因と生活因子の関与の検討を行ってきた対象者のうち、アポ蛋白濃度などデータのより充実している松山市近郊の農山村A地区住民105名の結果は、変異型のホモ保有者は2名(1.9%)、ヘテロ保有者は348(32.4%)、野生型(変異なし)は67名(65.7%)となった.次に、松山市近郊の農村B地区住民181名については、変異型のホモは4名(2.2%)、ヘテロは60名(33.1%)、野生型は117名(64.6%)となった。約1/3に変異がみられ、頻度の点では有用である可能性が期待された. これらの集団について既報(第64回および第65回日本衛生学会)の血清脂質値についての重回帰式(素因としてはアポB遺伝子VNTR多型を使用)の説明変数に、β3-AR遺伝子多型を加えて検討した。各重回帰式にβ_3-AR遺伝子多型を加えても、どの式にも採択されなかった.また、アポB遺伝子VNTR多型の項目を除いた上でβ_3-AR遺伝子多型を加えても採択されず、VNTRの項目を除いた分だけ重相関係数が小さくなった.今回指標として試みたβ_3-AR遺伝子多型はこれらの集団では高脂血症の素因スクリーニングには有用とはいえず、アポB遺伝子VNTR多型の方が有用であった。
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