研究概要 |
1.8-9週齢雄のメタロチオネイン(MT)遺伝子欠損マウスおよび正常(野生型)マウスに、重金属として塩化第二水銀(30μmol/kg,s.c.)を、フリーラジカル誘起物質として制癌剤シスプラチン(CDDP:40μmol/kg,i.p.)並びにX-ray(1.0Gy)をそれぞれ1回投与(全身照射)したところ、MT遺伝子欠損マウスでは水銀あるいはCDDPによる腎毒性(BUN値の上昇)並びに放射線による骨髄毒性(白血球数の減少)いずれも野生型マウスに比べて有意に増強した。 2.硫酸亜鉛(100μmol/kg,s.c.)を1日1回、2日間前投与した野生型マウスでは、腎臓および骨髄中MT濃度が有意に増加し、上記1に示した水銀あるいはCDDPによる腎毒性並びに放射線による骨髄毒性がコントロールレベルまで軽減された。しかし、MT遺伝子欠損マウスでは、亜鉛前投与によって腎臓および骨髄中MTは誘導されず検出限界以下であり、野生型マウスのような軽減効果は認められなかった。 3.MT遺伝子欠損マウスおよび野生型マウスに、薬物投与4時間前にグルタチオン(GSH)合成阻害剤であるL-ブチオニンスルフォキシミン(BSO:2.5mmol/kg)をそれぞれ1回皮下投与して腎臓中のGSH濃度を共に約20%まで低下させることにより、塩化第二水銀(1.0μmol/kg,s.c.)あるいはCDDP(30μmol/kg,i.p.)による腎毒性が著しく増強された。しかも、BSO前投与による水銀あるいはCDDPの腎毒性増強効果は、野生型マウスに比べてMT遺伝子欠損マウスの方が強く現れた。 以上の結果から、MTは重金属および酸化的ストレスに対する生体内防御因子として重要な役割を果たしていることが強く示唆された。また、MTおよびGSHは重金属や酸化的ストレス負荷に対して互いに協調して防御的に働いていると思われる。
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