有機リン剤中毒の遅発毒性発症のメカニズムは、従来、摂取後脂肪中に蓄積された有機リンが再度血中に溶け出すことで生ずると考えられているが、この点を明らかにした実験は今のところなく、その予知も困難である。 そこで本年はラットにフェニトロチオン(MEP)を経口投与し、その後の体内分布、更に汗、尿中への排泄を経時的に調べることで、このメカニズムを明らかにし、予知できることを目的として動物実験を開始した。 動物実験を行う前にガスクロマトグラフィーでMEP及び尿中代謝物の分析を行うための抽出法をあらかじめ検討し、検量線を作成した。 動物実験は雄性Wistarラットを用い行った。MEP投与後、血液、諸臓器、汗中のMEP濃度は経時的に増加したが、その後は減少した。汗中のMEP濃度の減少は、経皮的に再吸収されたものと考えられる。しかし、脂肪中濃度は血中濃度が減少し、検出限界に近づいてもなお増加し100倍以上の濃度差を示した。これで脂肪中への蓄積が裏付けられた。また、血液、脂肪中のMEPは投与後24時間ではほとんど検出されなくなったことから、この間に脂肪中から血液への再溶出が生じ、血中濃度の再度の増加が推察される。 更にヒト症例としてMEP中毒で入院加療中の患者についても同様に調べたところ、血中濃度の増加が数日後に再び観察され再溶出が示唆された。 今後は動物実験、ヒト症例の分析を行うことで脂肪組織からの再溶出を検討し遅発毒性発症の解明、更には予知へと繋げる計画である。
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