平成9年度に引き続き、法医剖検例における覚醒剤中毒者の心臓における洞結節及び房室結節を中心とする刺激伝導系について症例を増やして、覚醒剤使用の経験がない症例を対照群として、ヘマトキシリン-エオジン(HE)染色及びエラスチカ・マッソン(EM)染色について形態学的に観察したところ、対照群には明らかな変化を認めなかったが、覚醒剤中毒群においては刺激伝導系の特殊心筋細胞の変性・脱落が認められた。この刺激伝導系の特殊心筋細胞における、形態の変化を詳細に観察すると、一部の症例ではアポトーシス小体の出現を伴う核崩壊像と考えられる所見が認められた。さらに、この核崩壊像はアポトーシスによるDNAの断片化を検出するIn situ end-labeling法により陽性像を認めた。 以上の研究結果から、Methamphetamine等の覚醒剤はその薬理学的な作用によりの刺激伝導系の特殊心筋細胞にアポトーシスを引き起こす可能性が示唆される。したがって、覚醒剤中毒者の心臓突然死のメカニズムとしては、心房・心室の心筋の変性に加えて、刺激伝導系の障害により不整脈が発生する、という可能性が考えられる。 今後、この研究を発展させるには、アポトーシスの原因となると考えられる転写因子及び細胞内情報伝達の変化を免疫組織化学的に研究することが必要と思われる。
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