慢性関節リウマチ滑膜におけるT細胞と血管内皮細胞に特異的に発現する接着分子の同定

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09770335
• 研究機関: 産業医科大学
• 研究代表者: 田中 良哉 産業医科大学, 医学部, 講師 (30248562)
• キーワード: 慢性関節リウマチ / T細胞 / 血管内皮細胞 / ケモカイン / プロテオグリカン / CD44 / インテグリン / 接着分子

研究概要

慢性関節リウマチ(RA)滑膜炎は、関節滑膜内のT細胞の集蔟的浸潤と血管新生を特徴とし、末梢血T細胞が滑膜組織内へ遊出した結果、滑膜の炎症とその遷延化をもたらす。我々は、T細胞と血管内皮細胞との接着機構において中心的役割を担うT細胞インテグリンの接着は、ケモカインにより誘導される事を報告してきた。今回、RA滑膜組織内の内皮細胞が如何なる細胞表面機能分子を発現してT細胞の滑膜組織内遊出をもたらすかについて検討した。まず、RA滑膜炎組織より血管内皮細胞を精製し、発現する分子をIL-1刺激臍帯静脈由来血管内皮細胞とflow cytometerで比較検討した。その中で、ヘパラン硫酸プロテオグリカンは臍帯由来内皮細胞には全く発現しないがRA滑膜由来内皮細胞では高発現し、CD44も後者においてより強く発現した。また、ヘパラン硫酸プロテオグリカンの一部はCD44の変異型CD44v3であることが示唆され、免疫組織染色においてもRA滑膜炎組織における両者の発現が認められた。さらに、T細胞とRA滑膜由来血管内皮細胞との接着は、ケモカインMIP-1αとMIP-1βを内皮細胞上のヘパラン硫酸プロテオグリカンに固相する事により一層効率的に誘導される事を接着実験で認めた。一方、RA滑膜炎組織より抽出したT細胞は、MIP-1αとMIP-1βを無刺激下で産生する事をELISA法とnorthern blotting法で認め、これらのケモカインは、RA滑膜血管内皮細胞上のヘパラン硫酸プロテオグリカンに固相されて血流に抗して発現する事が、免疫組織により示唆された。以上、RA滑膜炎では、血管内皮細胞がヘパラン硫酸プロテオグリカンを高発現し、本来流動性と拡散性を有するケモカインを固相するして一定箇所に高濃度に集積させる事によって、T細胞のインテグリンの活性化を介する内皮細胞との接着と組織への遊出を誘導する事が示された。

研究成果

• [文献書誌] Y.Tanaka: "Modulation of cytokine function by heparan sulfate proteoglycans:sophisticated models for the regulation of cellular responses to cytokines" Proc.Assoc.Am.Physicians. (in press).
• [文献書誌] Y.Tanaka: "Heparan sulfate proteoglycan on endothelium efficiently induces integrinmediated T cell adhesion by immobilizing chemokines in rheumatoid synovitis" Arthritis.Rheum. (in press).
• [文献書誌] 田中良哉: "接着分子-サイトカインとのクロストーク-" 医学のあゆみ. 182. 580-585 (1997)
• [文献書誌] 田中良哉: "慢性関節リウマチと接着分子-接着分子とサイトカインのクロストーク-" リウマチ. 37. 48-57 (1997)
• [文献書誌] 田中良哉: "接着分子-その炎症免疫における役割" 現代医療. 29. 29-37 (1997)
• [文献書誌] 田中良哉: "RA滑膜におけるサイトカインと接着分子のクロストーク" 臨床免疫. 29. 184-191 (1997)
• [文献書誌] Y.Tanaka: "CD29 Workshop Panel report" In Leukocyte Typing VI(ed.by Kishimoto,T.,et al.),Garland Publising,NewYork, 4 (1997)
• [文献書誌] 田中良哉: "最新内科学体系、免疫・アレルギー疾患" 中山書店(山本一彦 編), 12 (1997)