研究代表者らは、肝細胞の増殖過程におけるトロンビンの新しい役割を解明すべく研究をおこなっている。そのモデルとしてヒト肝癌由来細胞株HepG2を使って、トロンビン刺激を加えた場合の情報伝達を解析した。トロンビン刺激によりERkキナーゼの活性は2倍に上昇した。一方Junキナーゼの活性は10倍以上に高まった。この効果はトロンビンに特異的で、他のアゴニストではみられなかった。またp38MAPキナーゼの活性も4倍程度に上昇させることが判明した。以上よりトロンビンがヒト肝由来の細胞株において3つのMAPキナーゼを活性化することが判明した。Junキナーゼの活性化は百日咳毒素に非感受性であり、Cキナーゼの枯渇化で部分的に抑制された。即ち3量体G蛋白質のうちGiでなくGqを介するシグナル伝達がこの系路に関与していることがわかった。 慢性肝炎患者の血中では、炎症の持続によりトロンビン活性が高まっていることが報告されている。現在までトロンビンは肝疾患において凝固因子としてのみ考えられてきたが、今回のデータにより肝細胞に対する液性刺激因子としての性格が明らかになり、肝再生や肝癌のプロモーションにかかわる可能性がでてきた。 今後は、ラットを用いた初代培養系やin vivoでの解析の研究を進めたいと考えている。
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