佐賀県は、厚生省の統計において肝癌による住民の死亡率が最も高い地域であり、また肝癌の原因の90%以上がHepatitis C virus(HCV)の感染によるものである事が判明している。県内において特定の地域の50才以上の住民にHCV感染者が多く認められ過去におけるHCVの流行感染が推定された。このようなHCV高感染地域における流行時期を同定すべく、50才以上の住民の7〜80%に認められるHCV genotype1b型についてHCV遺伝子配列の変異速度をもとにした検討をおこなった。その結果、早くとも1948年すなわち戦後にこの地域にHCVが蔓延したものという結果が得られた。その後の検討として同じ地域の各年齢層におけるHCVgenotypeの比較を行った。60才以上のHCV感染者は、HCVgenotype1b型が80%を占め30才代から50才代のHCV感染者は、HCVgenotype1b型が約70%であった。20才代から70才代までのHCV感染者から得られたHCVgenotype1b型についてHCVenvelope領域の遺伝子配列のをもとに分子系統樹を作成し比較したところ殆どが同系統のHCVgenotype1b型であった。以上の結果より県内のHCV高感染地域においては、戦後まもなくの時期に同系統のHCVgenotype1b型の流行がみられ現在60才以上のHCV感染者に肝癌の多発をみている。また、30才代から50才代のHCV感染者も約70%が60才以上のHCV感染者と同系統のHCVgenotype1b型の感染がみられ今後の注意深い経過観察が必要であると考えられた。
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