本研究の目的は、単鎖抗体とT細胞受容体(TCR)γ鎖の融合遺伝子を導入したHLA非拘束性CTLクローンを確立することにある。昨年度の検討では、単鎖抗体として我々の教室で確立した抗MUC1ムチンモノクローナル抗体MUSE11のVHおよびVLを用い、RT-PCR法によってハイブリドーマよりVHおよびVLcDNAを、ヒトT細胞よりγ鎖cDNAをそれぞれ得、レトロウイルスベクターPG1ENに組み込み融合遺伝子発現ベクターとした。しかし、一過性遺伝子導入法にてパッケージング細胞からウイルスの産生を行ったが、十分なウイルス力価が得らず、このためEBウイルスにて不死化されたT細胞株への感染効率も低くこれまでのところ本法ではtransfectantを得るに至っていない。代わりにVH+VL+TCRγ鎖をCMVプロモーターを有する通常の真核細胞発現ベクターにつなぎ、lipofection法で導入した後G418で選択してsatable transfectantsの確立を行った。その結果、MUC1発現培養癌細胞株に結合能を示す数個のtransfectantクローンが得られたため、現在さらに単鎖抗体発現レベル、結合特異性などについて詳細な検討を進めている。今後は本transfectantsを用いて単鎖抗体の結合によるTCRγ鎖を介したシグナル伝達やin vivoでの腫瘍細胞への結合能についても検討する。
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