1)健常部肝3例、慢性肝炎6例、肝硬変6例から経皮的肝生検および術中肝生検により得られた肝組織を用いて、VEGFの発現をまずRT-PCR法にて検討したところ、全例VEGFの発現が認められた。しかし、mRNA発現量の比較では、有意な差が得られなかった。 2)抗VEGF抗体を用いた免疫組織染色では、肝細胞に陽性所見が得られたが、健常人、慢性肝炎、肝硬変の3群間に染色性の明らかな違いが見い出せなかった。 3)そこで血清中のVEGF濃度をELISA法にて検討したところ、健常人(10例)、慢性肝炎(10例)、肝硬変(12例)のVEGF濃度は、それぞれ2.57±0.97ng/ml、3.97±0.68ng/ml、2.64±0.78ng/mlと慢性肝炎例でやや高い傾向が認められた。しかし、統計学的には3群間に有意差は得られなかった。 以上の結果から、ヒト肝組織においては、恒常的にVEGFの発現が主に肝細胞に認められるが、肝線維化の進行に伴いその発現量が大きく変化しているとは言い難い。換言すれば、VEGFの発現が肝線維化に伴い増加しないことが、病態の悪化に関係しているのかもしれない。 今後の方針として、平成10年度は、肝硬変ラットモデルを用いて、in vivoおよびin vitro系でVEGFの発現ならびにVEGF投与における肝予備能の変化と肝類洞内皮細胞小孔に対する作用についてそれぞれ検討する予定である。
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