研究概要 |
C型肝炎では慢性化が80%近いという報告もあるなかで,変異が非常に多く認められるウイルスが宿主免疫系からいかに逃れるかを明らかにすることを目的として本年の実験を行った。 すでに我々は、肝炎の増悪を認めている患者に発見された細胞障害性T細胞の変異エピトープが、弱いアゴニストであり、細胞障害活性が弱まっていること、さらに少量のこの変異エピトープが、細胞障害活性においてTCRアンタゴニズムを示すことをT細胞株における実験で明らかにしてきた。さらにmulticlonalと思われる患者末梢血内細胞傷害性T細胞全体においても同じ結果を観察し、生体内でも同様のメカニズムが働いていることが明らかとしてきた。 そこで本年は、C型慢性肝炎患者において突然変異体のウイルスが極微量に出現した或いは存在するという状況を想定して実験を行った。すなわちC型慢性肝炎患者の末梢血よりの細胞障害性T細胞誘導においてTCRアンタゴニストである変異ペプチドを野性株エピトープの1/1000量加えることにより、細胞障害性T細胞数の変化および細胞障害活性の変化を観察した。極微量のTCRアンタゴニストペプチドが存在するだけで、誘導される細胞障害性T細胞数は絶対数において最大で1/30にまで減少することが観察され、細胞障害活性はアッセイに持ち込まれる細胞数を補正してすら、30%までに落ち込むことがわかった。 このことは細胞内でRNAウイルスが増殖する中で変異を起こし、わずか1/1000量の変異体が出現するだけで、生体内の対ウイルス免疫反応が著明に障害されることを意味する。この機構によりウイルスは生体内でheterogenousに生存するだけで、慢性化へとつながる大きなadvantageを得ていることとなる。 この知見は、HIVをはじめとする慢性感染症の成立メカニズムの理解に大いに示唆を与えると思われる。
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