我々は、肝炎の増悪を認めている患者に発見された細胞障害性T細胞の変異エピトープが、弱いアゴニストであり、細胞障害活性が弱め、かつ少量のこの変異エピトープが、細胞障害活性においてTCRアンタゴニズムを示すことをT細胞株における実験で明らかにしてきた。さらにC型慢性肝炎患者の末梢血より細胞障害性T細胞を誘導する実験において、TCRアンタゴニストである変異ペプチドを野性株エピトープの1/1000量加えることで、細胞障害性T細胞数が絶対数において最大で1/30にまで減少し、細胞障害活性がアッセイに持ち込まれる細胞数を補正してすら、30%までに落ち込むことを明らかにした。これは細胞内でRNAウイルスが増殖する中で変異を起こし、わずか1/1000量の変異体が出現することにより、生体内の対ウイルス免疫反応が著明に障害されることを意味するシュミレーション実験である。この機構によりウイルスは生体内でheterogenousに生存するだけで、慢性化へとつながる大きなadvantageを得ていることとなる。 そこで体内のウイルスが変異体に置き換わったと思われるC型慢性肝炎患者において細胞障害性T細胞がどう変化しているかを観察した。予測されたとおり、現時点のウイルスとなっている変異体による細胞障害性T細胞の誘導を行った場合、変異体のみを認識し、まったくもとの野性株エピトープを認識しない細胞障害性T細胞のみが誘導された。また変異体に対して野性株エピトープを加えることによるTCRアンタゴニズムは観測されなかった。これはいわゆるTCRアンタゴニズムのミラーイメージと予測されていたものであり、宿主免疫系の選択技を狭めることにより慢性感染成立に寄与していると考えられていたが、その成立が明らかとなった。
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