胃の部位により異なった調節機構の存在が考慮される粘液代謝において一酸化窒素(NO)及び神経ペプチドが果たす役割の有無を明らかにするため、免疫組織化学的手法を用いて、胃粘膜におけるNO合成酵素(NOS)の局在及びNOとの関連で注目されているCalcitonin gene-related peptide(CGRP)含有ニューロンの分布を胃の部位別に比較検討し以下のような結果を得た。 1.灌流固定後の胃組織から胃体部と前庭部の薄切標本を作製しNOSに対する抗体で免疫組織染色をおこなったところ、筋層間神経以外に胃体部粘膜細胞にも発現が認められた。 2.最近我々が独自に開発した表層粘膜細胞のムチンに対する特異的なモノクローナル抗体RGM21と副細胞ムチンに対する抗体HIK1083を用いて、NOSの結果を得た隣接切片で同様の検討を行ったところ、NOSの局在は表層粘液細胞と一致していることが明らかとなった。副細胞にはNOSの分布は全く認められなかった。 3.胃体部組織から表層粘液細胞層を剥離すると、粘膜細胞に認められたNOSの発現も消失した。 4.CGRPに対する抗体を用いた検討では、胃粘膜組織内のニューロンに染色性が認められ、これらのニューロンは表層粘液細胞層まで到達していることが確認された。 5.以上のNOS及びCGRP含有ニューロンの局在の結果より、ある種の粘液細胞の調節機構にNOやCGRPが重要な役割を果たしている可能性が強く示された。
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