平成9年度研究実績 慢性肝炎、肝硬変と肝繊維化の進行に伴って肝細胞癌の発癌のリスクも増強してくる。我々は、細胞接着分子の一つであるVCAM-1に注目しこの可溶性型 sVCAM-1の検討を行った。この結果、正常群、慢性肝炎、肝硬変と肝疾患の進行に伴ってsVCAM-1の上昇を認めた。更に、肝硬変を母地に発生した肝細胞癌では、単発例に比し、多発例でsVCAM-1が高値を呈することが示された。更に、肝細胞癌組織では、癌組織辺縁、特に被膜の血管内皮上にVCAM-1の発現の増強が認められた。一方、肝繊維化の進行に伴って細胞外マトリックスの分解酵素であるmatrix metalloproteinase(MMP)の増加が報告されている。MMP酵素のうちtypeIVcollagenaseであるMMP-2においても肝疾患の進行に伴い高値を呈し、またsVCAM-1と同様、肝硬変を母地に発生した肝細胞癌で、単発例に比し、多発例で高値でありsVCAM-1とMMP-2は有意に相関していた。文献上、肝細胞癌とは異なる疾患であるが、マウス実験脳脊髄炎では、VCAM-1のリガンドであるVLA-4陽性T細胞と血管内皮上のVCAM-1との結合がMMP-2の誘導を促し、この結果基底膜成分に対しprote olyticな反応が惹起されるとの報告がみられる。肝繊維化に伴なって発生した肝細胞癖の増大に関しても血管内皮上のVCAM-1とtypeIV collagenaseのMMP-2相互作用の相互作用の関与が深く示唆され、この相互作用の結果MMP-2により細胞基底膜破壊、腫瘍進展が生じて来る可能性が考えられた。来年度は、慢性肝疾患における肝繊維化に伴うVCAM-1のレギュレーションと発癌のメカニズム、及び発癌後の肝細胞癌の浸潤・転移における腫瘍新生血管内皮上の接着分子VCAM-1とMMP-2の相互作用にに焦点をあてて研究を進めていく予定である。
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