我々は前年度の研究において、原発性胆汁性肝硬変(PBC)の病態にアポトーシスが関与していることを示した。さらにウルソデオキシコール酸(UDCA)が、胆管上皮細胞および肝細胞の病的なアポトーシスを抑制しうることを示した。 今年度は実験的胆汁うっ滞ラットモデルを用い、Bcl-2蛋白の発現は胆汁うつ滞によって誘導されることを実際に確認した。すなわち、PBCは免疫学的異常が胆管破壊の背景にあり、胆汁うつ滞は二次的に進行すると考えられているが、免疫学的異常のない胆汁うつ滞ラットモデルでも同様のBcl-2蛋白の発現をみたことより、胆汁うつ滞自体がBcl-2蛋白を発現させることが示唆された。Westem blotによるBcl-2蛋白量の経時的解析では、閉塞性胆汁うつ滞モデルで蛋白量に有意な増加を認めた。すなわち総胆管結紮後5日目からBcl-2蛋白量の有意な増加を認め、14日以後は発現の増強が持続した。免疫組織化学的検討では、門脈域周囲にとくに強くBcl-2蛋白の発現を認めた。さらにUDCAはこのモデルにおけるBcl-2蛋白の誘導をある程度抑制しえた。一方、エストラジオールによる胆汁うつ滞肝ではBcl-2蛋白はわずかに誘導されたに過ぎなかった。HPLCによる胆汁酸分画の分析で上昇していた疎水性分画の再投与試験では、Bcl-2蛋白の発現は誘導されなかった。 以上の結果より、UDCAはPBC肝のアポトーシスを抑制しうる可能性が示唆された。アポトーシス抑制蛋白であるBcl-2の発現は、PBC肝のアポトーシスに対する適応機構の一つと考えられた。そしてUDCAによるBcl-2蛋白の発現の抑制は、UDCAによるアポトーシス機構の抑制を反映しているものと考えられた。また、胆汁うつ滞ラットモデルの結果から、Bcl-2蛋白の発現には胆汁うつ滞そのものが関与していることが示唆された。
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