昨年度の研究で、ラット気管由来平滑筋細胞は、増殖状態にほぼ無関係に転写調節因子E2F-5を高レベルに発現していることを見いだした。この発現パターンは既に報告した肺動脈由来の平滑筋細胞の場合とほぼ同様で、このことから平滑筋細胞に特異的な機能あるいは形態を付与する遺伝子の調節にE2F-5が与っているとの仮説を立てた。 これを検証するため、平滑筋細胞においてE2F-5の機能を直接的に増強あるいは抑制し、それによる形質の変化を観察することにした。その手段として、野生型ならびにdominant-negative型のE2F-5を発現するベクターを入手し、ラット気管および肺動脈に由来する初代培養平滑筋細胞へのトランスフェクションを試みた。dominant-negative型E2F-5の発現ベクターとしてはアミノ酸の1番から256番を欠失したE2F-5DN(1-256)、または同じく58番から256番を欠失したE2F-5DN(58-256)を用いた。 トランスフェクションの方法としては、リン酸カルシウム法を用い、まず大腸菌LacZ遺伝子を発現するコントロールベクターを用いて、トランスフェクションの効率を検討した。気管由来平滑筋細胞の場合は、試薬や培養の密度を種々に変えることにより約30%の効率が得られ、ほぼ満足すべきものと考えたが、野生型あるいはdominant-negative型のE2F-5遺伝子をこの条件で導入しても、光顕レベルでの明らかな形態変化や、増殖速度の違いは観察できなかった。今後さらに平滑筋特異的遺伝子発現への影響を観察する予定である。一方、肺動脈由来の平滑筋細胞では、今のところ満足すべきトランスフェクション効率が得られず、他の方法を試みる予定である。
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