多剤耐性癌に発現するP糖蛋白質を標的としたヒト肺癌の分子生物学的制御を目的に検討し、SCID-huモデル作成に向けて以下の諸点を明らかにした。 1.SCIDマウスにヒト肺癌細胞を経静脈的に移入することにより、遠隔転移形成モデルを確立した。 2.M-CSF、MCP-1、IL-2、IL-10遺伝子導入ヒト肺癌細胞をレトロウイルスベクターを用いて作成し、その転移能を上記モデルで評価した。また、NK細胞除去の影響も同時に検討した。MCP-1遺伝子導入は転移形成に影響せず、IL-2遺伝子導入はすべての臓器での転移を抑制した。M-CSF遺伝子導入肺癌細胞は転移臓器の微小環境条件により異なった転移形成能を示し、IL-10遺伝子導入肺癌細胞はNK細胞の有無により転移好発臓器が変化した。 3.抗P糖蛋白抗体はNK細胞及びマクロファージの抗体依存性細胞傷害反応(ADCC)を誘導し、NK欠損SCIDマウスでの多剤耐性ヒト肺癌転移モデルにて治療効果があることを示し、癌細胞へのMCP-1またはM-CSF遺伝子導入が抗P糖蛋白抗体の治療効果をすべての臓器において増強することを明らかにした。多剤耐性癌細胞へのIL-2遺伝子導入もヌードマウスへの皮下移植モデルで抗体治療を増強した。 以上、サイトカイン遺伝子導入と抗P糖蛋白質抗体の併用療法の可能性を検討してきた。今後は、NK欠損SCIDマウスへのヒトエフェクター細胞の同時移植モデルでの検討、さらにin vivoでのサイトカイン遺伝子導入のためのベクターの開発を進めていく予定である。
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