研究概要 |
メチレリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus,MRSA)が,本邦では1980年前半より重要な院内感染起炎菌であることを永武が指摘し,1991年10月より関連施設A病院内科老人病棟にMRSA分離患者の専用室を設置し,手指消毒の徹底に加えて褥瘡対策,下気道感染防止対策,環境菌対策等の統合的院内感染防止対策(以下対策)を日々継続することにより,院内肺炎および菌血症が減少したことを既に報告した.しかしながら,対策継続中の問題点としてMRSAが鼻腔,咽頭,喀痰等より分離されるにもかかわらず臨床症状を呈さず,抗菌化学療法を必要としない患者(以下保菌者)が老人病棟190床あたり20ないし30名程度存在し,院内でMRSA保菌者が月に数名発生することも事実である.したがって,保菌者の発生機序については未だ不明な点もあり,保菌者の発生にかかわる因子をより明確にすることが今後の対策のあり方をより合理的なものにするために必要と考えられた.今回、時間的因子を考慮したMRSA保菌患者における病室内でのMRSAの獲得状況、他の患者へのかかわり方をより明確にすることで手指による伝播以外の院内におけるMRSAの伝播様式を明確にすることでより効率のよい院内感染防止対策の指針を打ち出したいと考えている。 平成9年度は分離株の薬剤感受性の測定、コアグラーゼ型別、エンテロトキシン型別、TSST-1による解析を行った。現在パルスフィールドゲル電気泳動法によるMRSAの遺伝型を応用し、院内のMRSAの動態を分子疫学的解析を行っているが、これらの基礎的研究により特定の型の黄色ブドウ球菌の院内での動態を追跡することができ、保菌者の実態、特に環境汚染と保菌者の関連性がより明らかにされつつある。
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