当教室の関連施設、愛野記念病院内科老人病棟において1991年10月より指消毒の徹底に加えて、ポビドヨードを用いた下気道感染防止対策、褥療対策、環境菌対策を行っている。対策の継続によりMRSAによる院内感染症(菌血症、肺炎)は明らかに減少した。 しかしながら、院内でMRSA保菌者が月に数名発生し、MRSA保菌者の発生機序を明らかにすることによる合理的対策の確立が必要と考えられた。今回、重症の基礎疾患を有しMRSA分離者専用室に収容された高齢患者8名において2週間毎に3時間鼻腔、咽頭、喀痰、便、尿褥療、皮膚(頭髪部、右前腕部、右鼠径部の3ヶ所)の培養を実施する一方、専用室内5ヶ所と専用室出入口(廊下側)の計6ヶ所において2週間毎に拭きとり検査と落下細菌の収集を3ヶ月間行った。調査期間中に得られた患者由来黄色ブドウ球菌と環境由来黄色ブドウ球菌について薬剤感受性、コアクラーゼ型別エンテロトキシン型別、TSS7-1産生能を調べる一方、パルフィールドゲル電気泳動法による分子疫学的解析を行った。上記の検討により、専用室内での交叉感染がある特定の型によって生じていること、また空気浮遊細菌が気道における黄色ブドウ球菌の保菌者発生に関与している可能性が示唆された。特に便由来の黄色ブドウ球菌が患者の交叉感染や環境汚染への汚染源として注目された。
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