がん抑制遺伝子p53は抗癌剤の感受性を左右する因子として注目されている。近年、p53はC末端部においても機能を有し、非特異的塩基配列を有するDNAに結合し、アニーリング反応およびDNA鎖移行反応を触媒することが明らかになってきた。これらの機能はC末端部が直接的にDNA修復に関与していることを示唆するものと考えられる。 C末端部(Ct)の機能が抗癌剤の細胞障害能に及ぼす影響、特に抗癌剤によるDNA傷害とその修復の関連を調べた。p53とグルタチオン S トランスフェラーゼ(GST)との融合蛋白質を作成して、この融合蛋白質のDNA結合能、アニーリングおよびDNA鎖移行反応触媒作用に及ぼすアルキル化剤を含む各種抗癌剤の影響を調べた。(結果)GST-Ctの非特異的DNA結合能においてはminor gloove binderであるDU-86が一本鎖DNAに結合することによりGST-CtのDNA結合能を増強させた。アニーリング反応触媒作用は相補的DNAをDU-86処理することにより抑制された。C末端部蛋白のDNA鎖移行反応触媒作用においてはacceptorとして用いたDNAをDU-86処理することによりDNA鎖移行が抑制され、未処理の相補的DNA間の二本鎖形成は相対的に増加した。p53のC末端部はDU-86が結合し障害を受けたDNAに対し強く結合し、アニーリング反応、DNA鎖移行反応を抑制することを通して、DU-86により障害を受けたDNAの除去修復に直接的に関与している可能性が示唆された。 また、p53C末端部を過剰発現させた細胞株における抗癌剤に対する感受性をMTTアッセイで検討したところアルキル化剤であるDU-86およびMMCに対する感受性の変化が観察された。このことよりp53C末端部は、そのDNA修復機能を通じ、抗癌剤感受性に寄与する可能性が示唆された。
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