研究概要 |
前年度研究において、p53C末端部蛋白質に対するduocarmycinの影響を検索し、無細胞系においてduocarmycinは非特異的にDNAにアダクトすることにより、C末端蛋白質とDNAの結合を増強し、p53のDNA鎖間移行触媒およびアニーリング触媒作用を阻害することを示した。 平成10年度研究においては、このC末端蛋白質が細胞レベルでのduocarmycinの殺細胞効果に影響するか否かを検討するために、野生型および変異型p53を示すヒト肺がん細胞にp53C末端部分のcDNAをプラスミドベクターを用いて導入し、C末蛋白質を過剰発現させた細胞を作成し、duocarmycinを含む各種抗がん剤に対するin vitro感受性を検討した。両細胞株のcDNA導入細胞において、C末端部の過剰発現させた細胞はMockに比してduocarmycin(DU-86,KW-2189)による殺細胞効果に対する感受性が低下する傾向がみとめられた。また他のDNAアルキル化剤であるマイトマイシンCに対しても耐性を示した。シスプラチン、5FU等の他DNA作働薬、およびビンカアルカロイド等の微小管作用薬に対しては、有意な感受性の差違を示さなかった。以上により、p53蛋白質のC末端部分はアルキル化剤等のDNA障害性の抗がん剤によるDNAの傷害に対し、修復の過程を促進する可能性が示唆された。細胞のレベルにおいて、C末端部蛋白質がDNA傷害からの修復あるいはduocarmycinのDNAアダクト量に変化を与えているか否かを、アルカリエリューションを用いて検討したが、同実験系においては有意な差違を検出することはできなかった。p53蛋白質のC末端部は、DNA作働性抗がん剤の感受性に寄与し得ると知れた。
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