研究概要 |
1.ラット一過性脳虚血モデルを用い,ラクトフェリン免疫陽性細胞の時間的,および空間的局在を免疫組織化学的に検討した.対照群のラットではラクトフェリン免疫陽性細胞は小円形のオリゴデンドロサイトの細胞体にみられた.虚血再潅流後14日後になると錐体細胞死を生じた海馬CA1領域全体の腫大した樹状細胞にラクトフェリン免疫陽性所見を認め,グリア繊維酸性蛋白に対する二重免疫染色により,これらはアストロサイトであることが明らかとなった.ラクトフェリンは高い鉄キレート能を有していることから,神経傷害部位で産生されて局所でのフリーラジカルの発生を抑えているものと推測された. 2.ラットの一過性脳虚血モデルにおいて虚血負荷6カ月から12カ月後という慢性期に至って,脳内での鉄の沈着に起因すると思われる脂質過酸化によって大脳皮質に組織傷害が生ずることを明らかにした.これにより緩徐に進行する神経細胞死の過程に鉄代謝の異常が存在するという基礎的データを得られ,神経細胞死防御の方策のひとつとして鉄代謝の是正が重要であることを示した. 3.マウスラクトフェリンの合成部分ペプチドを免疫したウサギから抗ラクトフェリンポリクローナル抗体を得て,免疫組織化学により正常マウス脳におけるラクトフェリン免疫陽性細胞の分布を検討した.結果,中隔野の小型神経細胞にラクトフェリン免疫陽性の所見を認め,ラクトフェリンがコリン作動性神経細胞またはエストロゲンレセプター陽性細胞と共存している可能性が示唆された.この共存についてはさらに詳細に検討していく.
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