研究概要 |
高親和性の鉄結合蛋白であるラクトフェリン(Lf)に対するポリクローナル抗体を作製し,正常マウス脳内のLfの局在を免疫組織化学的に詳細に検討した.この抗体がWestern blot analysisにより約80kDの特異的バンドを認識することを確認した後,10週齢の雄性ICRマウスの脳切片を用いてABC法により免疫組織化学染色を行った. LF様免疫陽性反応(LF-LIR)は小脳のBergmann glia以外はすべて神経細胞に観察された.LF-LIRは大脳皮質ではpiriform cortexやentorhinal cortexの神経細胞に広範にLF-LIRを認めた.間脳では主として視床下部の諸核に著明なLF-LIRを認めた.特に室旁核にはLF-LIR陽性細胞が密集していた.視床下部は自律機能,内分泌機能,摂食機能などのホメオスタシスの調節に深く関わっており;ホルモン分泌の調整などを行う.本研究では,エストロゲンの皮下注射(100μg/kg)により大脳皮質,視床下部,子宮でLFの発現が増加することを確認しており,中枢神経系においてもLFは神経内分泌系の調節に関与している可能性が示唆された.脳神経では特に動眼神経核,三叉神経運動核,顔面神経核,舌下神経核等の運動神経核に強くLF-LIR陽性所見を認めた.運動系の細胞は多くのエネルギー産生を必要としており,したがってLFは酸素の消費やエネルギー産生を触媒する鉄の利用が多い部位に存在していると考えられる. これまで,脳内の鉄結合蛋白としては,トランスフェリンがオリゴデンド口サイトに,またフェリチンが主としてミクロダリアに存在することが知られているが,本研究は神経細胞にも鉄結合蛋白としてLFが存在することを明らかにした.LFは高い鉄キレート能により神経細胞が酸化的ストレスの発生を避けて鉄を安定して利用できるよう機能していることも想定された.
|