研究概要 |
片頭痛の発作時にサブスタンスPが関与することが言われている.サブスタンスPはタキキニンの一つで感覚神経の伝達物質として知られ,特に痛覚の伝達に関与している.また血管透過性の亢進や肥満細胞からの脱顆粒,白血球の活性化など神経原性炎症(neurogenic inflammation)に関与していることも知られている.このようにサブスタンスPの脳血管拡張や神経原性炎症に関係している点に注目され,片頭痛患者において血漿,血小板および唾液中の濃度が検討されている.片頭痛患者の発作中の血小板や唾液中のサブスタンスP濃度が測定され健常者と比べ高値を示したことが報告されている.我々は,片頭痛発作間欠期で血中サブスタンスP濃度が健常者と比較し低値を示すことを報告している.この結果よりサブスタンスP受容体側でdenervation hypersensitivityが生じている可能性が考えられ,このことにより発作期にサブスタンスPの少量の増加が生じればより強い血管の拡張およびneurogenic inflammationがおこる可能性を示唆している.近年サブスタンスP受容体の構造が明らかにされた.また受容体に対する抗体が作成され,免疫組織化学で中枢神経でその存在が明らかにされている.しかし現在まで脳血管でのサブスタンスP受容体の形態学的存在が証明されたことはない.そこで本年度は片頭痛の病態に密接に関係するサブスタンスP受容体の脳血管における存在をサブスタンスP受容体の抗体を用いて検討した.sprague-Dawleyラット,オス5匹を用い,深麻酔下に4%パラホルムアルデヒドで灌流固定した.固定後,脳血管および脳血管を支配する神経節である翼口蓋神経節,耳神経節,内頸神経節,上頸神経節,三叉神経節を摘出した.脳血管および内頸神経節はwhole-mount標本として,その他の神経節はクリオスタットで10μmの切片とした.すべての標本はサブスタンスP受容体でインキュベーションした後,avidin-biotin peroxidase complex法で発色させた.varicosityを有する多数のサブスタンスP受容体陽性神経繊維がウイリス動脈輪を構成する脳血管とその分岐に観察された.三叉神経節,翼口蓋神経節,耳神経節および上頸神経節にサブスタンスP受容体陽性の神経細胞が観察された.本年度は脳血管,および脳血管を支配する神経節においてサブスタンスP受容体の存在することを証明した.脳血管においてサブスタンスP受容体の存在が証明されたことは世界ではじめてで,ある.従来,片頭痛に関する研究は,頭痛の頻度や程度など臨床症状や疫学に関するものが報告されていた.本研究のように片頭痛の原因に迫るような研究は行われていない.また脳血管においてサブスタンスPのような神経伝達物質の受容体の存在が証明された研究もなく,今年度の研究が漠然と片頭痛の原因の一つにあげられている神経原性炎症(neurogenic inflammation)の解明にも繋がり得る点において極めて重要であり,有意義な結果が得られたと考えられる.
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