研究概要 |
我々は抗がん剤に対する多剤耐性をもつ癌細胞において高発現し,薬剤汲み出しポンプとして機能し耐性を与えるP-糖蛋白質に着目した。その遺伝子MDR1を心筋細胞に導入・発現させ、アドリアマイシン(ADR)による心筋毒性の軽減が可能かどうかを検討している。まず,非分裂細胞である心筋細胞への遺伝子導入について検討を行なった。アデノウイルスベクターに遺伝子としてβガラクトシダーゼを組み込み、一般的なプロモーターを用いて培養心筋細胞への遺伝子導入を行なったところ、ほぼ100%に近い遺伝子導入を確認できた。次に遺伝子として多剤耐性遺伝子MDR1を組み込み,ブロモーターには心筋細胞特異的発現の可能なミオシンのものを組み込んだアデノウイルスベクターを作製した。導入遺伝子の発現の確認はノーザンブロット法によるmRNAの発現と免疫染色法を用いた。このウイルスベクターを用いて培養心筋細胞によるin vitroの系で多剤耐性遺伝子MDR1を導入・発現させ,ADRの心毒性が軽減されるかを検討した。心毒性の評価法としてミトコンドリアの酵素活性の測定と,ADRによる心筋細胞内酵素遺伝子の抑制を検討した。高濃度では有為な差を認めないもののある濃度域ではMDR1導入群では有為にADRによる心毒性の軽減が認められた。現在さらに,in vivoの系でADRの心筋毒性が軽減されるかどうかの評価を行なっている。ウイルスを用いたin vivoでの遺伝子導入は効率が悪く,トランスジェニックマウスを作製し,これを用いてADRの心毒性の軽減効果を評価する。
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