stunned myocardiumにおける収縮不全の発生に細胞内Caオーバーロードが重要な役割を担っていることが知られており、その過程にcalpainが関与する可能性が示されてきた。しかし、in vitroで知られるcalpainの活性化に必要なCa濃度は、細胞内のそれに比しはるかに高く、また、心筋には、calpainの内因性阻害蛋白であるcalpastatinが十分量存在し、calpainの活性が完全に抑制されている可能性がある。そこで、単離心筋細胞を用いて、細胞内Ca濃度とcalpain活性を同時に計測する系を開発し、心筋細胞内でcalpain活性化に必要なCa濃度を計測した。calpain活性は、Boc-Leu-Met-CMACにより、Ca濃度は、fura redにより計測し、これらを同時に心筋細胞内に導入し、その励起蛍光を分離して計測した。細胞外をNa free液で灌流し、細胞内Caオーバーロードを誘発したところ、Caが増加開始して160秒遅れてcalpainが活性化された。この時のfura redの値は、1.39+0.14(コントロールに対する比)であった。この値から細胞内Ca濃度を推定するために、fura2、またはfura redを心筋細胞に導入し、代謝ブロック、Na free灌流、Ca ionophore、EGTA添加により段階的に細胞内Ca濃度を変化させ、fura2とfura redの蛍光強度の関係を求めた。この関係式からcalpain活性化時のCa濃度を推定したところ、287(156-604)nMであった。以上より、細胞内では、in vitroの結果と異なり、はるかに低いCa濃度でcalpainは活性化され、短時間の虚血再灌流時のCaオーバーロードによりcalpainが活性化され得ることが示された。
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