研究概要 |
循環器疾患の発症と進展には様々な因子が関与している.過去の疫学的研究からは,遺伝的因子の関与が推定されていたが,その実態は不明であった.我々は,従来より,ヒトの血管のトーヌスや,体液の恒常性の維持に強い影響を持つレニン・アンジオテンシン系の構成要素の遺伝子の解析を通じて,分子遺伝学的に循環器疾患の遺伝的危険因子に関して検討してきた。今年度はヒトの循環器疾患のうち多因子疾患のモデルとして急性冠症候群,頚動脈硬化症,本態性高血圧症といった疾患の遺伝子解析を行った。本態高血圧症に関しては,アンジオテンシノーゲン遺伝子のmRNAへの転写活性を調節する5'上流領域の点変異と,血しょうアンジオテンシノーゲン濃度との関連を多変量解析を通して明らかにし,さらに本態性高血圧症との関連をロジスティックレグレッション解析によって明らかにした。本態性高血圧症の発症を分子生物学的メカニズムから合理的に説明しうる遺伝子変異として,今後遺伝子診断としての臨床応用に関する研究のさらなる深化,発展が期待しうると考えられた。 また,従来より議論のあった,アンジオテンシン変換酵素遺伝子のイントロン16nのInsertion/Deletion多型に関しては急性冠症候群,頚動脈硬化症,血液透析中の心臓肥大に関して検討し,我々の見解を論文の形で明かにした。
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