本年度の研究では、中枢の一酸化窒素(NO)を阻害した際の血圧上昇のメカニズムを明らかにした。実験には雄性の日本白色家兔(2.5-3.0kg)を用い、ペントバルビタール静脈麻酔下に、右側脳室にカニューラを留置し、左腎交感神経に双極電極を装置した。実験は、手術後3日目以降に無麻酔状態で行った。NOの合成阻害薬であるN^ω-nitro-L-arginine methyl ester(L-NAME)の側脳室内投与による用量反応性を検討するために、人工髄液、および5、10、20、40μmolのL-NAMEを投与した。L-NAME側脳室内投与により、用量依存的に、血圧の上昇、心拍数の減少、腎交感神経活性の亢進を認めた。次に、20μmolのL-NAMEを側脳室内投与し、血圧、心拍数、腎交感神経活性の時間経過を検討するとともに、投与前、5分後、20分後、60分後に採血し、血漿カテコラミン、バゾプッレッシンなどを測定した。20μmolのL-NAMEの側脳室内投与により、血圧、腎交感神経活性は5分後をピークに上昇し、30分-60分で前値に復した。血漿エピネフリン、ノルエピネフリン値も5分後をピークとする上昇を来した。バゾプレッシンは上昇傾向を示したが、統計学的に有意ではなかった。交感神経節遮断薬であるパントリニウム(5mg)を静脈内前投与すると、L-NAME側脳室内投与による昇圧は有意に抑制された。一方、20μmolのL-NAMEを静脈内投与しても、血圧、心拍数、腎交感神経活性に変化はみられなかった。以上のことより、側脳室内投与L-NAMEは、中枢神経系に作用し、交感神経活動を亢進させることにより血圧を上昇させると考えられた。現在、NOの圧受容体反射感受性におよぼす影響を検討中である。
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