これまでに我々は、甲状腺ホルモンの投与が循環レニン・アンジオテンシン系または心内レニン・アンジオテンシン系の活性化を介し心肥大を引き起こすこと、この機序が交感神経系とは独立して存在すること、Ca拮抗薬のNicardipineではこの心肥大を抑制できないがアンジオテンシンII受容体拮抗薬Losartanではこの心肥大を抑制することを示してきた。今回我々は、甲状腺ホルモンが直接心内レニン遺伝子の発現量を増加させ、循環レニン・アンジオテンシン系ではなく、心内レニン・アンジオテンシン系を特異的に活性化し、心肥大を引き起こすという仮説をたてた。10匹の6週齢のSprague-Dawleyラットを用意し、浸透圧ミニポンプを後頸部の皮下に植え込み、循環レニン・アンジオテンシン系を抑制するものの血圧などの血行動態には影響を与えない量、すなわち40ng/minのアンジオテンシンIIを持続注入した。5匹ずつ二群に分け、Control群・Hyper群と名付けた。Control群には、saline vehicleの腹腔注を行った。Hyper群には、0.1mg/kg/dayのThyroxineの腹腔注を行った。両群において、血漿レニン・アンジオテンシンIIは低値に固定されたが、Control群と比べてHyper群において、心臓のレニンmRNAの発現量(54%)・心内レニン含量(71%)・心内アンジオテンシンII含量(55%)・心重量(43%)の有為な増加が認められた。これは、甲状腺ホルモンが心臓のレニンmRNAの発現量を増加させ、循環レニン・アンジオテンシン系ではなく、心内レニン・アンジオテンシン系を賦活化し、心肥大を引き起こす可能性を示すものと考えられる。
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