研究概要 |
冠動脈血栓形成における血小板膜糖蛋白GP Ib,GP IIb-IIIaの役割を明らかにするために本年度は速い血流下(高いズリ速度下),遅い血流下(低いズリ速度下)での血小板凝集における両蛋白の役割を検討した。蛋白の機能評価にあたってはmonoclonal抗体を用いた。遅い血流,低いズリ速度下(1,200s-1以下)で形成される血小板の凝集塊は,血小板膜糖蛋白GP IIb-IIIaにfibrinogen,von Willebrand factor(vWF)が結合することにより形成された。低いズリ速度下での血小板凝集にはGP Ibは関与していなかった。血漿蛋白がGP IIb-IIIaのみに結合して形成された凝集塊は,速い血流,高いズリ速度(7,200s-1以上)下では容易に解離した。7,200s-1以上の高いズリ速度下で安定な血小板血栓を形成するためには血漿蛋白であるvWFが,血小板膜糖蛋白GP Ib,GP IIb-IIIaの両者とconcurrentに結合することが必須であった。ADP,epinephrineにより血小板を完全に活性化させ,血小板上の殆ど全てのGP IIb-IIIaにfibrinogenが結合した条件でもfibrinogenは高いズリ速度下で血小板凝集を支えることができなかった。本年度に明らかにした以上の事実はJ Clin Investに発表した(Goto S,et al:Distinct mechanisms of platelet aggregation as a consequence of different shearing flow conditions.J Clin Invest 101:479-486,1998)。冠動脈血栓が,速い冠血流,高いズリ速度下で形成されることから冠動脈血栓の形成にはGP Ib,GP IIb-IIIaの両者と血漿蛋白であるvWFの相互作用が重要な役割を果たしている可能性を示唆した。実際の冠血栓形成における両蛋白の役割を検討することが次年度の目標である。
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