本研究の目的は、虚血性不整脈の成因として注目されつつある血小板活性化因子(PAF)の心筋細胞への影響を電気生理学的に検討し、PAFによる早期後脱分極(EAD)発現の機序ならびにその最適制御方法を明らかにすることである。 微小電極法による検討では、PAF(及びlyso PAF)〜1.0μM投与による活動電位持続時間の延長、EADの誘発が認められた。これらの作用はNa-channelブロッカー(TTXなど)で抑制され、Na-channnelの関与が強く示唆された。そこで、PAF(及びlyso PAF)のNa-channel電流への影響を、パッチクランプ法(Whole-cell並びにCell-attached patch法)により詳細に検討した。Whole-cellモードにおいては、PAF(及びlyso PAF)〜1.0μMはNa-channel電流不活性化の時定数増大(不活性化遅延)作用を示し、この作用は細胞内代謝系(PKCなどの情報伝達系)を抑制した条件下でも認められた。一方、Cell-attachedモードにてパイペット外のみにPAF(及びlyso PAF)を投与した場合は、Na-channel電流不活性化の遅延は生じなかった。これらの結果より、PAF(及びlyso PAF)は細胞内情報伝達系の関与なしに、細胞外より直接(或はlipid bilayerを介して)Na-channelへ作用すると考えられた。このようなNa-channel不活性化遅延作用は、LPCなどの虚血性代謝産物の作用と同様であり、EAD誘発のイオン機序として有力であるが、PAF(及びlyso PAF)1.0μMでの不活性化遅延作用はLPC10-100μMの作用に比べて軽度であり、さらに高濃度での効果を検討する必要があると考えられた。また、内向き整流K電流への影響も検討したが、低濃度(〜1.0μM)の範囲内では特に影響を認めなかった。 現在、遅延整流K電流への影響、特異的受容体の関与(受容体拮抗物質の影響)を検討中であり、今後は、EAD誘発のイオン機序をさらに詳細に検討すると共に、PAFによるイオン電流系調節の分子機構を解明していく予定である。
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