最近、BIO14.6ハムスターの心筋症の原因遺伝子がジストロフィン(Dys)複合体の一つ、δ-サルコグリカン(δ-SG)遺伝子であることが報告され、SGの欠損が心筋症を引き起こす可能性は非常に高い。そこで、骨格筋由来の株組織を用いた実験系を構築し、サルコグリカン欠損に伴う細胞障害を詳細に検討した。 トリプシンで浮遊させた筋管細胞では、ディッシュへの再接着あるいはRGDSペプチドの添加でα-、γ-SGのチロシンがリン酸化された。筋管細胞から抗Dys抗体を用いて免疫沈降した標品にはDys複合体以外にインテグリン(Int)が含まれ、また、α-SGが接着斑に存在していた。一方、SGを欠損した筋管細胞では接着能が低下し、Dys複合体ととともに免疫沈降されたInt量も低下した。これらの結果からDys複合体はSGのチロシンリン酸化を介してInt細胞接着系と相互作用していることが明らかになった。 また、SGを欠失された筋管細胞に伸展刺激を加えると、欠失していない細胞に比べて、最高で80倍も高いCPKが遊離した。CPKの増加は、チロシンキナーゼ、CおよびAキナーゼ、PI3キナーゼ、MEKなどに対する阻害剤では抑制されなかったが、細胞外Caがほとんど存在しない場合、細胞内にCaキレーターを導入した場合、カチオンチャンネル阻害剤のニフェジピンやトラニラスト、カルパイン阻害剤では阻害された。SGを欠失した細胞では細胞膜に異常が存在し、Ca流入、細胞内Ca濃度の増加、カルパイン活性の上昇が起こった結果、遊離CPKが増加、すなわち細胞障害が引き起こされたと考えられる。 以上の結果は、心筋症ハムスターや筋ジストロフィー患者の心筋や骨格筋細胞では細胞内Ca濃度やcalpain活性が高いことなどの結果とよく一致し、本研究で構築した実験系が心筋症や筋ジストロフィーの病態のモデルとして適していることが示された。
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