【目的】Wiskott-Aldrich症候群(以下WAS)は、血小板減少・難治性湿疹・免疫不全を3主徴とする伴性劣性遺伝疾患で、血小板減少のみを示す亜型のX連鎖性血小板減少症(以下XLT)を含め、患者ではWASP遺伝子異常が見いだされる。WAS・XLT・健常人について巨核球コロニー形成能を比較し、蛍光抗体法および電顕により検討した。【対象と方法】遺伝子異常の確定しているWAS5例、XLT3例と、健常人6例を対象とした。骨髄CD34陽性細胞を分離し、巨核球コロニーはメチルセルロース法で、proplatelet形成細胞数はTPO添加液体培養で算定した。分化した巨核球を抗WASP抗体で染色した。患者巨核球について電顕により解析した。【結果】巨核球コロニー形成はCD34陽性細胞2×10^3あたり、TPO添加ではWAS1.33±0.85、XLT6.55±3.67、健常人8.88±4.21であり、SCF+TPO添加ではWAS3.07±1.30、XLT18.3±3.76、健常人21.2±3.46であり、WASでは有意に低下していたがXLTでは健常人と差を認めなかった。一方proplatelet形成細胞数はCD34陽性細胞1×10^4あたりWAS14.4±6.84、XLT6.22±4.43、健常人57.7±47.5で、WAS・XLTとも有意に低下していた。抗WASP抗体での染色性はWASでは低下していた。電顕では、WASの巨核球内でα顆粒とdemarcation systemが混在せず、分化異常が示唆された。【考察】従来、WASの血小板減少の主因は破壊の亢進とされてきたが、今回の結果からは巨核球-血小板系の分化異常も重要と考えられる。WASタンパクは細胞骨格と相互作用する分子で、シグナル伝達や細胞突起形成に重要と考えられ、その異常が巨核球への分化・増殖の異常につながる可能性が大きい。
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